虫に鳥にも

読んだもの、見聞きしたものの記録に。

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 生まれてきた以上、人生を否定はしないが、別に生まれてこなくてもよかったな、という気持ちはある。私は経済社会的には自分1人を生かしておくだけでトントンで、なんの余剰もない人間だ。奨学金を抱えているぶん、むしろマイナスだし。私が生まれていなければ、私を育てるのにかけた時間やお金を、母は自分のために使えただろう。

 生んでくれたことに感謝する、生まれることのできない命に思いやる、そうした感覚と同じように、しかし生まれてこなければ、生まれてきたかった、という気持ちとも無縁だと思う。生まれてきてよかった、という気持ちがわからない。それは、生きているなかで楽しいと感じるのとは別の話だ。

 

 夏に帰省したおり、祖父が「孫に会えただけで元気になる」と言って、夏バテで小食気味だったのが、その夜は人並みに食べていた。私にも存在するだけで価値のある場面があるんだな、と思って、自己肯定感をちょっとだけ取り戻した。

 人の命や人生には本当は意味も価値もなくて、だからこそ、ただ生きているだけでいいのだとは思うけど、社会のどこかに自分の姿が映る鏡がなければ、やはり生きていくのは難しいなとも思う。いてもいなくてもいいような、ただの質量。人生の帳尻を合わせられないでいる。